5E 民   法    問  題  の  解  説(ホームへ
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 「Aは、Bに対する未払い賃料はないことを知りつつ、Bから賃料不払いを理由とした賃貸建物明渡請求訴訟を提起された場合における防御方法として支払いをなした」とある。
 つまり、Bが請求してきた賃料は払う義務がなく、自分の主張の方が正しいとわかってはいるがが、このままでは「出て行ってくれ」と訴訟を起こされかねないので、「払ういわれはないが、とりあえず払う。後は、冷静になって話合いましょう」といって、支払いをしてしまった。
 この場合は、703条
 「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(受益者)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」を根拠として、そのお金を戻せと請求できるかというのが本肢の論点。
 Bはいわれのないお金を受け取ったのだから、Bに、返せと請求するのは当然のはず。
 しかし、Aは、「未払い賃料はないことを知りつつ払った」とあるところが少し厄介。
 確かに、705条によると、
 「債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない」
 つまり、不要であることを知りつつ納得して払った(狭義の非債弁済をなした)のであるから、民法で保護する必要はなく、返還を請求することはできないとしている。
 それでは、Aはまるまる損の泣き寝入りかというと、実はそうではなく、大審院判例[不当利益返還請求]T06.12.11)に、
 「705条により、債務の弁済として給付をなしたる者が、その当時債務の存在せざることを知りたるためその給付したるものの返還請求することを得ざるは、給付者において、任意に給付をなしたることを要す。
 従って、強制執行を避けるがため又はその他の事由により、やむを得ずして給付をなしたる者は、債務の存在せざる限り、事後その給付したるものの返還を請求することを得るものとす」とある、
 つまり、「705条により、給付したものの返還は請求できないと断定するためには、強制執行を避けるため又はその他の事由のためにやむことを得ず給付したのかどうかについて確認すべきである」とした。
 これによれば、本肢の場合、訴訟の提起をさせないためにやむなく払ったものであって、納得して任意に払ったものではないから、「Bの得た金は不当利得であるから返還せよ」と請求できる。
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 本肢はかなり込み入っている。
 出題の対象となった最高裁判例[約束手形金](H10.05.26)によると、事件の概要は、
 「Bは、Cから強迫を受けて、Aから3,500万円を借り受ける旨の消費貸借契約を締結した。この際、Bは、Cの指示に従って、Aに対し、貸付金をDの口座に振り込むよう指示し、Aは、これに応じて振り込んだ。
 その後、Bは、Aに対し、Cの強迫を理由に消費費貸借契約を取り消す旨の意思表示をした。
 本件においてAは、Bは貸借契約に基づき給付された金員につき悪意の受益者に当たるとして、704条に基づき、AがDの口座に振り込んだ金員及び利息の支払を求めたものである」
 すなわち、通例であるならば、たとえば、BはDに借金があってその弁済に充てるためにDの口座に振り込ませたなどが考えられ、Bは消費貸借契約なしに借金を弁済したことにより不当利得を得たのではないか、というのがAの主張である。 
 これに対して判決では、
 「特段の事情がなければ、Aの主張は正しいといえるが、本件の場合、BとDとの間には事前に何らの法律上又は事実の関係はなく、Bは、Cの強迫を受けて、ただ指示されるままに消費貸借契約を締結させられた上、貸付金をDの右口座へ振り込むようAに指示したというのであるから、特段の事情があった場合に該当し、Bは、右振込みによって何らの利益を受けなかったというべきである。
 よって、AはBに対し、不当利得として貸付金相当額の返還を請求することはできない」とした。
 ということは、利益を得たのはBではなくDということになる。
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 本肢は、「賃借人Cが建物の改装工事をしたが、商売がうまくいかず、その代金を払うことができなくなった。
 工事屋さんAとしては、家主Bは何らの出費もしないで建物が立派になったのだから、不当利得の一部として、未収の工事代金を払え」と訴えた事件。
 最高裁判例[不当利得金](H07.09.19)によると、
 「Aが建物賃借人Cとの間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後Cが無資力になったため、AのCに対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者Bが法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、BとCとの間の賃貸借契約を全体としてみて、Bが対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。
 けだしBがCとの間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、Bの受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、AがBに対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、Bに二重の負担を強いる結果となるからである」
 つまり、建物所有者Bが工事により受けた利益は、賃貸するに際し通常であれば賃借人Cから得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできない。
 703条にある不当利得には該当しない以上、建物所有者Bには利得の返還義務が発生しない(工事屋さんAはBに請求することはできない)
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 「C(修理屋さん)はB(機械の賃借人)から修理を請け負い、これを終了したのでBに機械を返還したが、Bは修理代金を支払わないまま無資力となり」とある。
 このままでは、C(修理屋さん)は修理代を回収できないので困ってしまう。
 一方、A(機械の所有者)はBと機械の賃貸借契約を結んでいたが、(Bが無資力になり、賃料も払えなくなったため)か、この賃貸借契約を解除し、Aはその機械を取り戻したようである。
 それでは、「CはAに対して、不当利得に基づき修理費用相当額の支払を求めることができるか」というのが、本肢の論点。
 703条によれば「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受けた者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う」とある。
 確かに、Aは何らかの対価の負担や犠牲を払うこともなく、その修理済みの機会を受け取ったならば、不当利得といえるかもしれないが、本肢の場合、「機械の修理費用は借主Bの負担とする旨の特約が存するとともに、これに相応して賃料が減額されていた」とあるから、不当利得を得たとはいえないであろう。
 この点は、最高裁判例[不当利得金](H07.09.19)においても、「賃貸借契約において何らかの形で所有者が利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、所有者の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、所有者に二重の負担を強いる結果となる」と理由で、不当所得の返還請求(Aの方からいえば、返還義務)は認められなかった。
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 「Aは配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した」とある。
 また、「A・B間の贈与が書面によってなされたとき」とあるが、これは、書面によらない贈与の解除規定(550条)の反対解釈として、「書面による贈与は、(原則として)解除できない」とされていることを、出題者は言いたいのであろう。
 しかしながら、本肢にある不倫の関係を継続する目的で行った贈与については、90条の「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」を根拠に、贈与そのものが無効である。
 Bからいえば、Aは708条による「不法原因給付を行った者」といいたいのであろうが、まだ引き渡されたものがないのだから、給付は何も行われておらず、Bが引き渡し請求できるものもその根拠もい。
 つまり、「Aは、Bからの引渡請求を拒むことができる」
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 「Aは、Bとの愛人関係を維持するために、自己の有する未登記建物をBに贈与し、これを引き渡した」とある。
 このように、不倫の関係を継続する目的で行った贈与については、90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」とあるように、無効である。
 ということは、その建物の所有権はAにあるから、Bがこれを所有占有することは不当利得に該当するので、703条により、これを返せと返還請求できるかというのが本肢の論点。
 これについては、最高裁判例[建物引渡等請求事件](S45.10.21)によると、
 「A・B間の贈与は公序良俗に反し無効であり、また、右建物の引渡しは不法の原因に基づくものであって、未登記建物であつても、その引渡しを完了したのであるから、この引渡しが民法708条本文にいういわゆる給付に当たる」とした。
 つまり、本肢の場合、不当利得ではなく、708条の不法原因給付が適用されて、
 「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」はずである。
 同判例では、さらに念押して、「このように、贈与が無効であり、したがつて、贈与による所有権の移転は認められない場合であつても、Aがした贈与が不法原因給付に当たるときは、本件建物の所有権はBに帰属するにいたつたものと解するのが相当である。
 けだし、708条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されない筋合であるというべきである」と結論した。
 要は、「未登記建物であつてもその引渡しを完了した場合は、その引渡しは給付に当たるので、法律の保護に値しない」ということ。
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 「Aは配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した」とある。
 このように、不倫の関係を継続する目的で行った贈与については、90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」とあるように、無効である。
 ということは、その建物の所有権はAにあるから、Bがこれを所有占有することは不当利得に該当するとも考えられる。
 よって、703条により、これを返せと返還請求できるかというのが本肢の問いかけ。
 しかしこのような場合、Bの不当利得というよりも、Aの不法原因給付708条に該当する。
 同条によると、「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」とあるから、本肢の論点は、「未登記建物を引き渡したことが、「給付した」ことになるか否か」という点にある。
 これに関しては、最高裁判例[建物引渡等請求事件](S45.10.21)において、
 「A・B間の贈与は公序良俗に反し無効であり、また、右建物の引渡しは不法の原因に基づくものであって、未登記建物であつても、その引渡しを完了したのであるから、この引渡しは民法708条本文にいういわゆる給付に当たる。
 このように、贈与が無効であり、したがつて、贈与による所有権の移転は認められない場合であつても、Aがした贈与が不法原因給付に当たるときは、本件建物の所有権はBに帰属するにいたつたものと解するのが相当である。
 708条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されない筋合であるというべきである」とした。
 つまり、「未登記建物であつてもその引渡しを完了した場合は、708条本文の給付に当たる」のである。
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 過去問解説(25-34-2)にあるように、
 「A・B間の贈与は公序良俗に反し無効であり、そのような贈与による建物の引渡しは不法の原因に基づくものであって未登記建物であつても、その引渡しを完了した場合、この引渡しは不法原因給付708条本文にいう給付に当たる。
 よって、Aは返還請求することはできない。
 また、返還請求できないということは、建物の所有権はBに帰属するにいたつたものと解することができる。
 従って、すでに所有権がBに移っているのに、Aがいまさら登記しても意味はなく、返還請求できる根拠がない。
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 過去問解説(25-34-2)にあるように、
 「A・B間の贈与は公序良俗に反し無効であり、そのような贈与による建物の引渡しは不法の原因に基づくものであっても、未登記建物を引渡した場合は、この引渡しは不法原因給付708条本文にいう給付に当たるので、Aは返還請求することはできない。
 これが原則である。しかしながら、本肢では、「Aの不法性がBの不法性に比してきわめて微弱なものであっても返還請求できないか」と念押ししているのである。
 そう言われてみると、不法原因給付708条にはただし書きがついており、「ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない(返還請求ができないわけではない)」とある。
 確かに本肢のような場合は、最高裁判例[貸金請求]S29.08.31)において、
 「上告人が本件貸金を為すに至つた経路において多少の不法的分子があつたとしても、その不法的分子は甚だ微弱なもので、これを被上告人の不法に比すれば問題にならぬ程度のものである。殆ど不法は被上告人の一方にあるといつてもよい程のものであつて、かかる場合は
既に交付された物の返還請求に関する限り民法90条も708条もその適用なきものと解するを相当とする」とある。
 つまり、この裁判においては、被上告人が上告人から密輸出計画をもちかけられ、いったんは賛同したけれども後にこれを思い止まって出資を拒絶した。しかし、被上告人に泣きつかれたので、止むを得ず航海の経費として金15万円を貸したに過ぎない。
 これに対して、被上告人はこの金を遊蕩に使ったあげく、90条と708条をたてにしてこの貸金を返済しないでよいとするのは、甚しく社会的妥当性に反すると判断したのである。
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 「Aは配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外のBと不倫関係にあり、その関係を維持する目的で、A所有の甲建物をBに贈与した」とある。
 このように、不倫の関係を継続する目的で行った贈与については、90条に「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」とあるように、無効である。
 このような場合、Aによる贈与は不法原因給付に該当し、708条
 「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」とあるから、本肢の論点は、「登記建物を引き渡したことが、「給付した」ことになるか否か」という点にある。
 これについては、最高裁判例[建物所有権移転登記手続等請求](S46.10.28)によると、
 「贈与が有効な場合、特段の事情のないかぎり、所有権の移転のために登記を経ることを要しないことは、所論のとおりであるが、
 贈与が不法の原因に基づくものであり、708条にいう給付があつたとして贈与者の返還請求を拒みうるとするためには、本件のような既登記の建物にあつては、その占有の移転のみでは足りず、所有権移転登記手続が履践されていることをも要するものと解するのが妥当と認められる」
 つまり、登記不動産の贈与については、引き渡しだけではなく移転登記が完了しないと、708条にいう「給付」には該当しない。
 本肢の場合は、移転登記はBが請求中であってまだ行われていないことから、建物の「給付」があったとはいえない(引き渡しは完了していても、所有権はまだAにある)
 よって、今の段階なら、移転登記を拒むことができる。
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 「賭博に負けたことによる債務」とあるから、すぐに90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」を思い出すべき。
 すると、「賭博に負けたAが債務を負った」としても、この債務を果たす義務はないはず。
 しかしながら、Aは「高価な骨董品」をBに差し出してしまった。
 このような場合、Aも賭博を行うという公序良俗に反する行為をした弱みがあるので、703条にある「不当利得の返還請求」ではなく、708条の「不法原因給付」が適用され、
 「不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない」ことになる。
 しかしながら、本肢はさらに複雑で、「その後、骨董品をAに返還する旨の契約に合意した」とある。
 このような場合については、最高裁判例[約束手形金請求](S28.01.22)によると、
 「不法原因給付であつてその返還を請求し得ないものであるとしても、元来708条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、
 受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。
 従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、同条の禁ずるところでないものと解するを相当とする。
 そして、かかる特約が民法90条により無效であると解することのできないことも多言を要しない」
 つまり、不法原因給付をした者に返還請求権を法律上の保護として与えることはできないが、給付を受けた者が、任意に返還することは勝手であり、まして、不法原因契約(賭博で生じた債務の発生)の解除と それにより得た給付(骨董品)の返還について合意する特約を結ぶことも勝手である。
 そのような特約は有効である以上、特約の履行(骨董品の返還)を請求することができる。

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 不法行為については、709条に、
 「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とある。
 不法行為に該当するかどうかについては、
 @加害者に責任能力があること、A故意又は過失によること
 B違法性のある行為であること、C実際に損害(含む精神的損害)は発生していること、
 D行為とその損害に因果関係があること
 から判定する、
 本肢の場合、 「鍵が掛けられていた自転車を盗んだ者が・・・・・」とあるから、その自転車の所有者には、「故意も過失もない」ということができ、所有者が不法行為責任を問われることはない。
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 不法行為については、709条に、
 「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」とある。
 不法行為に該当するかどうかについては、
 @加害者に責任能力があること、A故意又は過失によること、B違法性のある行為であること、C実際に損害(含む精神的損害)は発生していること、D行為とその損害に因果関係があること。
 本肢の場合、@は問題なし、Aは過失、Bは手抜き工事、C絵画に損害、Dは手抜き工事による漏水(これは実証しないといけない)が原因であると考えられる。
 なお、AとCとの間には契約関係がないので、瑕疵担保責任とか債務不履行や危険負担などの問題は発生しない。 

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 「A・B間で賃貸借契約を締結し、AがBにこの土地の引渡しをしようとした」
 しかし、「契約の直後にCがAに無断でこの土地を占拠し、その後も資材置場として使用している」
 つまり、このままでは、賃貸借契約は前に進まないことになる。
 この場合、AはCに対して、「どのような規定を根拠に、どのような責任を追及できるか」ということがわかれば、この問題は一件落着する。
 問題文に「不法行為」と「損害賠償請求」のことが書いてあるので、後は、709条不法行為の条文を思い出し、
 その適用が妥当かを確認するだけである。
 「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」
 Cの行為は正にこれに該当する。
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 「宗教上の理由から輸血拒否の意思表示を明確にしている患者に対して・・・・・手術を行い輸血をしてしまった」とある。
 そこで、この患者(死亡後は患者の夫と子が受け継いで)は医師の行為を不法として損害賠償請求した有名な訴訟に関する出題である。
 最高裁判例[いわゆるエホバの証人輸血拒否事件H12.02.29]によれば、
 「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信念に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない
 (一方)、医師らは、手術の際に輸血以外には救命手段がない事態が生ずる可能性を否定し難いと判断した場合には、輸血するとの方針を採っていることを説明して、本件手術を受けるか否かを患者自身の意思決定にゆだねるべきであったと解するのが相当である」
 ところが、「輸血する可能性があることを告げないまま本件手術を施行し、右方針に従って輸血をしたのである。
 そうすると、医師らは、右説明を怠ったことにより、患者が輸血を伴う可能性のあった本件手術を受けるか否かについて意思決定をする権利を奪ったものといわざるを得ず、この点において同人の人格権を侵害したものとして、同人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝すべき責任を負うものというべきである」と判断した。
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 問題文に「交通事故の被害者が後遺症のために身体的機能の一部を喪失した場合には、その後遺症の程度が軽微であって被害者の現在または将来における収入の減少が認められないときでも、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害が認められる」とあるのは、原審での判断であり、原審では「事故によつて生じた労働能力喪失そのものを損害と観念すべきものであり、被害者に労働能力の一部喪失の事実が認められる以上、たとえ収入に格別の減少がみられないとしても、その職業の種類、後遺症の部位程度等を総合的に勘案してその損害額を評価算定するのが相当である」とした。
 これに対して、最高裁判例[損害賠償S56/12/22]においては、「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であつて、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないとい
うべきである」として、原審とは逆の判断をしたのである。
 さらに続けて、「事故後においても給与面で格別不利益な取扱も受けていないというのであるから、現状において財産上特段の不利益を蒙つているものとは認め難いというべきであり、それにもかかわらずなお後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである」としている。

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 損害賠償しなければならない債務が発生する時期(それを怠った場合に履行遅滞となる時期)については、412条に規定があり、その3項で、
 「債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う」とある。
 しかしながら、不法行為による損害賠償義務については、被害者を保護しなければならないという側面もあるため、最高裁判例[損害賠償請求](S37.09.04)において、
 「本件は、不法行為によりこうむつた損害の賠償債務の履行およびこの債務の履行遅滞による損害金として、損害が発生した日以降の金利を含めてその支払を求める訴訟であることが記録上明らかである。
 そして、右賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく遅滞に陥るものと解するのが相当である」とした。
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 不法行為の場合の損害賠償請求権に関する胎児の権利能力については、721条に、
 「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす」 とあり、不法行為に対する損害賠償請求権は、胎児にも認められている。
 一般には、3条
 「私権の享有は、出生に始まる」とあり、まだ生まれていない胎児には権利能力はない。
 しかしながら、民法ではこの例外として、上記721条による「不法行為に対する損害賠償請求権」のほか、886条の「相続」、965条の「遺贈」については、胎児にも権利能力を認めている。
 ということは、債務不履行に対する胎児の損害賠償請求権は、原則どおりであって、認められていない。

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 権利を主張できる(その反面義務を負う)能力を権利能力といい、これについては3条に、 
 「私権の享有は、出生に始まる」とあるから、原則的には、生れる前の胎児には権利能力はない。(本人が権利を主張できないのであるから、代理人による主張もあり得ない」
 ただし、不法行為に伴う賠償請求権については、721条
 「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす」 とあって、例外的に胎児による権利の主張(権利行使)が認められている。(他に、相続、遺贈についても同様)
 ただし、「既に生まれたものとみなす」ということの意味については、その解釈の仕方について意見の対立があるところであるが、大審院判例(S07.10.06)によれば、
 「胎児が生きて生れると、相続の開始や不法行為のときに遡って権利能力を取得するのであって、胎児の間はこの権利を保全できる代理人はいない」とあり、
 胎児の出生前は、母親であっても代理人として権利を行使することはできない、とされている。
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 「個々人が良好な景観の恵沢を享受する利益」とある。
 これについて争ったある事件(ある学校法人と地域住民が高層マンションの建設に反対して争った事件)に対して、最高裁判例{建築物撤去等請求事件(H18.03.30)]は、「良好な景観に近接する地域内に居住し,その恵沢を日常的に享受している者は,良好な景観が有する客観的な価値の侵害に対して密接な利害関係を有するものというべきであり,これらの者が有する良好な景観の恵沢を享受する利益(景観利益)は,法律上保護に値するものと解するのが相当である」とした。
 すなわち、景観利益を違法性のある故意又は過失行為によって侵害した場合は、709条の不法行為が成立すると、最高裁は認めたのである。
 なお、参考ながら上記の争いについて同判例では続いて、「ある行為が景観利益に対する違法な侵害に当たるといえるためには,少なくとも,その侵害行為が刑罰法規や行政法規の規制に違反するものであったり,公序良俗違反や権利の濫用に該当するものであるなど,侵害行為の態様や程度の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くことが求められると解するのが相当である。・・・・・・
 本件建物の建築は,行為の態様その他の面において社会的に容認された行為としての相当性を欠くものとは認め難く,上告人らの景観利益を違法に侵害する行為に当たるということはできない」として、不法行為そのものは認めなかった。
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 「医師の過失により医療水準に適った医療行為が行われず患者が死亡した場合において、医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても・・」とある。
 医師の過失により医療水準に適った医療行為が行われなかったことは大問題であるが、実際にとられた医療行為と患者の死亡との間の因果関係が証明されなくても、不法行為が成立するかとなると、判断がぐらつく。
 なぜなら一般に、「故意又は過失による不法行為」という立証責任は被害者側にあるのだから。  これに関しては、最高裁判例[損害賠償責任事件(H12.09.22)]において、「疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である」
 なおこの判例において、最高裁は、「医師がこの患者に対して適切な医療を行った場合には、救命し得たであろう高度の蓋然性までは認めることはできないが、これを救命できた可能性はあった」と判断した。
 そして、「生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである」と結論した。 

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1
 問題文では、いきなり「訴訟上の因果関係の立証は・・・」とある。
 後から出てくる判例から分かるのであるが、これは709条の不法行為「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に関連するものである。
 そして、ある行為が709条にいう不法行為に当たるための要件の一つとして、「行為とその損害に因果関係があること」が要求されている。
 本肢は、これに関する最高裁判例[損害賠償請求](S50.10.24)からの出題であり、争われたのは、医療行為に関してである。
 その判決文に「訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではな
く、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである」とした。
 この事件で担当医師は、「自分が行った医療行為とその後発生した病変との間には因果関係はない」と主張し、一審ではこれを支持した。
 しかしながら最高裁では、「因果関係の立証が科学的に完璧にはできないからといってその因果関係を否定したのは、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持っている経験則に反する」として、差戻しとしたのである。

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4
 「不法行為による損害賠償請求権の時効」については、724条により、
 「@被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときあるいは、A不法行為の時から20年間行使しないときに消滅する」
 ただし、問題文にある「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効」については、724条の2が適用され、「724条の@の適用については、「3年間」とあるのは、「5年間」とする」とされている。
 よって、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する」
 なお、724条のAの「不法行為の時から20年間行使しないときに消滅する」はそのまま適用される。

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1
 「未成年者が他人に損害を加えた場合」とある。
 このような場合の責任については、712条に、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」とある。
  「道徳上の是非善悪を判断できるだけの能力があるとき」とは、民法上では何のことかわからない。
 ここは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能(自己の加害行為についての法律上の責任を判断できる能力)であって、平均的には11から12歳程度ではないかといわれている。
 すなわち、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能」を備えていたときに、賠償の責任を負うのであって、その知能を備えていなければ、賠償の責任を負わない。

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 未成年者の損害賠償責任については、責任能力について規定した712条
 「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」とある。
 つまり、加害行為を行ったとしても、それが法律に違反したものであって、法律により罰せられる行為であると自分でわかる判断力がなければ、いわゆる責任能力がなければ、その未成年者は不法行為責任を問われない。
 しかしそれだけでは、被害者は泣き寝入りになってしまう恐れがあるので、714条に、責任無能力者の監督義務者等の責任について規定されており、
 「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」
 とあって、未成年者自身が賠償責任を有しないときは、原則的にはその監督責任者(通常は両親)が責任を取らなければならないことになっている。 
 ただし、この監督義務者による責任は「常に」課せられるものではなく、714条後段ただし書きに
 「ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」にあるように、
 監督義務違反でない、義務を怠らなくても損害が生じた、ことを監督者が立証すれば、監督者も責任を免れるのだ。

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2

 問題文をざくっと読むと、「責任能力を有する未成年者が不法行為をなした場合・・・・親権者は、被害者に対して不法行為責任を負わない」とも読める。
 712条に「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」とあり、
 その場合は、責任無能力者の監督義務者等の責任を規定した714条に、
 「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とあるので、一般的には、未成年者がなした不法行為については、親権者が不法行為責任を負うことになる。
 しかしながら、本肢において厄介なことは、問題文の冒頭に「責任能力を有する未成年者」つまり、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えている者」とある。
 その場合の親権者の責任の有無については、一般的には714条からいって、
 「未成年者が責任能力を有する場合には、監督義務者には責任がない」ことになる。
 ただし、最高裁判例[慰藉料請求](S49.03.22)によると、
 「未成年者が責任能力を有する場合であつても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によつて生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、
 監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当である」とした。
 これで一件落着のように思えるが、問題文をさらに詳細に読むと、
 「親権者の(責任能力を有する)未成年者に対して及ぼしうる影響力が限定的で、かつ親権者において未成年者が不法行為をなすことを予測し得る事情がないとき」はどうかと、聞いている。
 これについては、別の最高裁判例[損害賠償請求事件](H18.02.24)つまり、
 「少年院を仮退院して保護観察に付されていた甲らが集団で上告人に暴行を加えた傷害事件に関して,上告人が,被上告人らには,当時未成年であった甲らの親権者として,被上告人らの下で生活すること,定職に就いて辛抱強く働くことなどの保護観察の遵守事項を甲らに守らせ,また,これらが守られない場合には,甲らを少年院に再入院させるための手続等を執るべき監督義務があったにもかかわらず,これらを怠って甲らを放任したために,上記傷害事件が発生したものであると主張して,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案」に対して、
 「被上告人らの下を離れて生活したこともあったなど被上告人らが親権者として甲らに対して及ぼし得る影響力は限定的なものとなっていたといわざるを得ないから,被上告人らが,甲らに保護観察の遵守事項を確実に守らせることができる適切な手段を有していたとはいい難い
 よって、本件事件当時,被上告人らに本件事件に結びつく監督義務違反があったとはいえず,本件事件によって上告人が被った損害について,被上告人らに民法709条に基づく損害賠償責任を認めることはできない」とした。 

6
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 いわゆる責任能力に関しては、713条に、
 「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない」 とある。
 責任弁識能力を常に欠いた状態にあれば成年被後見人や被保佐人になりうるが、本肢で問題にしているのは、常にそうであるかどうかということには関係なく、その行為を起こした時点でおいて、責任弁識能力を欠いていたときは、どうなるかということ。
 このような場合には上記の713条が適用され、原則的には、責任を負う必要がない。
 しかしながら、同条にただし書きがあるように、もし一時的に責任能力を欠いた場合であって、しかも責任能力を欠いた原因が故意または過失によるものであれば、責任を負うことになる。
 たとえば、痛飲をして泥酔状態にあったときに暴力をふるった場合、その暴力がたとえ故意でも過失でもないとしても、異常に深酒をしたということ事態が通常は故意あるいは過失によるものであるからして、賠償責任を負うことになるのだ。
 「いかなる場合も責任を負わない」とするのは言い過ぎである。

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2
 「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者」とある。
 この場合は、713条に、「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない」とあり、これが原則である。
 ただし、本肢の場合は、「過失によって一時的にその状態(自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態)を招いたとしても」か、と畳み込んできている。
 そのような場合は、713条に「ただし書き」があり、「ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない」としている。
 たとえば、痛飲をして泥酔状態にあったときに暴力をふるった場合、その暴力がたとえ故意でも過失でもないとしても、異常に深酒をしたということ事態が通常は故意あるいは過失によるものであるからして、賠償責任を負うことになるのだ。
令元
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1
 本肢は、ある認知症患者(当時91歳)が、線路内に立ち入り、列車に衝突して死亡し、遅延損害を生じさせた事件において、その妻と長男を法定の監督義務者(又はこれに準ずべき者)に当たるとして、鉄道会社が損害賠償金等の連帯支払を求めた最高裁判例[損害賠償請求事件](H28.03.01)からの出題である。
 その判決文によれば、「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできないというべきである。
 また、長男についても、「監督する法定の義務を負う者」に当たるとする法令上の根拠はないというべきである。
 もっとも,法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められ
る場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである」とした。
 ただし実際には、妻と長男の日常の対応等について、細かく審理した結果、「妻も、長男も精神障害者である夫(父)の法定の監督義務者に準ずべき者に当たるということはできない」としている。
 なお、参考までに、「714条にある「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」とは誰か」という疑問が残る。
 これについて、同判決文では、「精神上の障害による責任無能力者について監督義務が法定されていたものとしては,平成11年改正前の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律により精神障害者に対する自傷他害防止監督義務が定められていた保護者や,同年改正前民法による禁治産者に対する療養看護義務が定められていた後見人などが挙げられるが、法改正に伴って、本事件発生の平成19年当時において,保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない」とある。
 この状況は現在も続いているので、個々のケースについて、判例などに基づいて判断するしかない。
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 問題文前段に、「Aの運転する自動車と、Bの運転する自動車が、それぞれの運転ミスにより衝突し、歩行中のCを巻き込んで負傷させ損害を生じさせた」とある。
 このような場合は、719条にあるように、
 「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする」とあって、
 共同不法行為に基づく損害賠償債務は連帯債務であるとしている。
 連帯債務であるということは、共同不法行為者それぞれが全額について連帯責任を負うことになる。
 問題文では、続いて「CがBに対して損害賠償債務の一部を免除」とある。
 これについては、最高裁判所判例[損害賠償](H10.09.10)において、
 「共同不法行為者が負担する損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であるから、(共同不法行為者の一人である)甲と被害者との間で訴訟上の和解が成立し、請求額の一部につき和解金が支払われるとともに、和解調書中に、「被害者はその余の請求を放棄する」旨の条項が設けられ、被害者が甲に対し残債務を免除したと解し得るときでも、
 連帯債務における免除の絶対的効力を定めた旧(注として追加)437条の規定は適用されず、(他の共同不法行為者)乙に対して当然に免除の効力が及ぶものではない」とした。
 ここで、旧437条は、「連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる」とあったが、法改正により削除。
 法改正後は上記の判例にならって、441条「更改、相殺及び混同を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う」ことに。
 すなわち、
「連帯債務者の一人が免除された場合でも、原則として、他の連帯債務者には免除の効力は及ぼない」
 ここで、「原則として」とあるのは、441条後段ただし書きによる。
令元
34
5
 問題文は、最高裁判例[損害賠償請求事件](H13.03.13)の判決文の一部であり、
 「交通事故によりそのまま放置すれば死亡に至る傷害を負った被害者が、搬入された病院において通常期待されるべき適切な治療が施されていれば、高度の蓋然性をもって救命されていたときには、当該交通事故と当該医療事故とのいずれもが、その者の死亡という不可分の一個の結果を招来し、この結果について相当因果関係がある。
 したがって、当該交通事故における運転行為と当該医療事故における医療行為とは共同不法行為に当たり、各不法行為者は共同不法行為の責任を負う」とした。
 参考までに、この裁判でにおける主要な争点は、原審において、「共同不法行為であることを認めた上で、本件の場合のように,個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し,その行為類型が異なり,行為の本質や過失構造が異なるなどの場合には,各不法行為者は,各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張できる」とした。( 具体的には、寄与度を2分の1ずつとして、全体の損害額の半分ずつを支払うべきとした)
 これに関して、上記の最高裁判例では、「本件交通事故における運転行為と本件医療事故における医療行為とは民法719条所定の共同不法行為に当たるから,各不法行為者は被害者の被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである。本件のようにそれぞれ独立して成立する複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから,被害者との関係においては,各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し,各不法行為者において責任を負うべき損害額を限定することは許されない」として原審の判断を退けた。
 確かに、719条においても、「各自が連帯してその損害(の全額)を賠償する責任を負う」とある。
 ただし、一人で全額弁済した場合は、共同行為者どうしでの求償問題が生じる。

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1

 不法行為に対する損害賠償の方法については722条に、
 「417条(損害賠償の方法)及び417条の2(中間利息の控除)の規定は、不法行為による損害賠償について準用する」と規定されており、その417条によれば、
 「損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める」とある。
 すなわち、不法行為による損害賠償の方法としては、金銭賠償が原則といえるが、「別段の意思表示による」と例外も認めている。
 また、名誉毀損にかかわる不法行為に対しては、723条による「原状回復」の請求も認めている。

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2

 債務不履行による損害賠償の場合の過失相殺については、418条に、
 「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める」 とあり、
 債権者に過失があったときは、裁判所は必ずこれを考慮しなければならず、場合によっては賠償責任そのものの免除もありうる。
 一方、不法行為による損害賠償の場合の過失相殺については、722条の2項に
 「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とあり、この場合は、
 被害者に過失があったとしても、賠償責任は免れず、減額するかどうかは裁判所の判断によることになっている。
⇒「定める」と「定めることができる」とでは大違い。
 また、不法行為の加害者はより厳しく糾弾される。
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 Aの過失(前方不注意)による自動車事故により、他人Cを負傷させ損害を与えたのであるから、不法行為による損害賠償709条
 「故意又は過失によっ他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に該当するので、Cは損害賠償を請求することができる。
 その場合、Cが乗っていた自動車を運転していたCの夫Bにも過失がもしあったとしたら、相殺されるかどうかというのが本肢の論点。
 これに関しては、722条2項
 「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 つまり、不法行為の場合、原則として過失相殺されると考えて良いが、被害者に過失があったとしても、賠償責任は免れず、減額するかどうかは裁判所の判断による。
 本肢の場合、過失相殺されるとしても、Cが乗っていた自動車を運転していたCの夫Bが、722条2項にいう被害者といえるかが次に問題となる。
 これについては、最高裁判例[損害賠償請求](S51.03.25)に、
 「民法722条2項が不法行為による損害賠償の額を定めるにつき被害者の過失を斟酌することができる旨を定めたのは、不法行為によつて発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであると考えられるから、右被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも包含するものと解される。
 したがつて、夫が妻を同乗させて運転する自動車と第三者が運転する自動車とが、右第三者と夫との双方の過失の競合により衝突したため、傷害を被つた妻が右第三者に対し損害賠償を請求する場合の損害額を算定するについては、右夫婦の婚姻関係が既に破綻にひんしているなど特段の事情のない限り、夫の過失を被害者側の過失として斟酌することができるものと解するのを相当とする」とした。
 つまり、もしAが妻Cに賠償金の全額を支払った場合、Aは、夫Bにも過失があるにもかもかかわらず自分だけ不当に多額の損害を被ったとして訴えを起こし、Bの過失分に対する損害賠償金の支払いが認められることもありうる。
 この場合、BとAとは夫婦であることを考慮すれば、最初から夫の過失を相殺したとしても、不都合ではないのでは、ということ。
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 不法行為による損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 本肢の場合、被害者Aは「急に道路へ飛び出した」のであるから、過失がありそうであるが、なにしろAはまだ3歳とある。
 よって、「過失を斟酌するためには、どのような能力が必要か」というのが、本肢の論点といえる。
 これに関しては、最高裁判例[損害賠償等責任](S39.06.24)において、
 「民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足りる」と判断した。
 よって、本肢の場合、3歳の子供の過失を斟酌できるか否かは別として、「過失を斟酌するに、事理弁識能力があることは必要でなく」とあるのは、誤りである。
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 不法行為による損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 この場合、被害者が未成年者の場合は、最高裁判例[損害賠償等責任](S39.06.24)によれば、「被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合は、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足りる」とした。
 ところが本肢の場合、被害者Aはまだ3歳であるから、事理を弁識するに足る知能が具わっているとはいいがたい。
 しかしながら、そもそもAが急に道路に飛び出したのは、母親Bが目を離したためであるともいえる。
 この点について本肢では、「BとAとは別人格なので、Bが目を離した点についてのBの過失を斟酌することはできない」としているが、これは正しいであろうかというのが論点。
 これについては、最高裁判例[慰謝料請求](S42.06.27)において、
 「民法727条2項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、右にいう被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当とする」とある。
 つまり、本肢の場合は、母親の過失は相殺の対象となりうる。
 なお参考までに、上記判例は、むしろこの例とは異なり、「両親から幼児の監護を委託された者で被用者のような、被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれない」として、保育園の保母さんによる過失については、相殺の対象とはならないとするものであった。
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 不法行為による損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 本肢の場合、被害者Aが「急に道路へ飛び出した」、あるいは監督者である母親Bが「目を離した」という過失があると思われるが、本肢はそれらとは別の論点である。
 通常ならば、Aが死亡せずにすくすくと成長しておれば、将来多大な収入を得ることができるはずであろうが、それが失われた(利益の逸失)ので、加害者はそれを償わなければならない。
 その場合において、逆に、死亡により養育費が減ったのだから、その分を逸失利益から差し引くことができるか否かというのが、本肢の論点。
 そんな馬鹿なと思われるが、このことが争いになり、結局は、最高裁判例「損害賠償](S53.10.20)において、「交通事故により死亡した幼児の損害賠償債権を相続した者が一方で幼児の養育費の支出を必要としなくなつた場合においても、右養育費と幼児の将来得べかりし収入との間には前者を後者から損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との同質性がなく、したがつて、幼児の財産上の損害賠償額の算定にあたりその将来得べかりし収入額から養育費を控除すべきものではないと解するのが相当である」と判断した。
 養育費と将来得ることができるであろう収入額とは別物である。
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 A(3歳)は母親Bが目を離した隙に、急に道路へ飛び出し、Cの運転するスピード違反の自動車に轢(ひ)かれて死亡した」
 この場合、Cは不法行為による損害賠償709条「故意又は過失によっ他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」に該当するので、Cは損害賠償しなければならない。
 一方、Aは「急に道路へ飛び出した」とあるから、Aにもいくばくかの落ち度がありそうなので、Cが負うべき損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に基づいて、A自身の過失を考慮した過失相殺がなされるか否かが問題となる。
 しかしながら、本肢の場合、Aはまだ3歳とある。
 参考までに、712条においては、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」としている。
 このようなことから、本肢では、「Aに責任能力があることが必要であるので、Aの過失を斟酌することはできない」としているが、これが正しいか否かである。
 これに関しては、最高裁判例[損害賠償等責任](S39.06.24)において、
 「民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である」としている。
 ただし、この判例の場合、Aは8歳であった。本肢の場合、3歳であるから「事理を弁識するに足る知能が具わっている」とは思えないが、すくなくと、「過失相殺するには、Aに責任能力があることが必要である」という点で誤りである。 

3
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 不法行為における損害賠償の額を定めるに当たっては、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 本肢の論点は、「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していた場合、裁判所は、これを考慮してくれるか」どうかである。
 これに関する最高裁判例[損害賠償](H08.10.29)によると、
 原審では、「被害者は、平均的体格に比して首が長く多少の頸椎の不安定症があるという身体的特徴を有しており、この身体的特徴に交通事故による損傷が加わったものであるから、損害の4割を減額するのが相当である」と判断した。
 これに対し、最高裁は、「被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、722条2項の規定を類推適用して、被害者の疾患を斟酌することができることは、当裁判所の判例[損害賠償](H04.06.25)とするところである。
 しかしながら、被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても、それが疾患に当たらない場合には、特段の事情の存しない限り、被害者の右身体的特徴を損害賠償の額を定めるに当たり斟酌することはできないと解すべきである」とした。
 なお、更に付け加えて、「被害者の身体的特徴は首が長くこれに伴う多少の頸椎不安定症があるということであり、これが疾患に当たらないことはもちろん、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されているといった事情は認められないから、前記特段の事情が存するということはできず、右身体的特徴と本件事故による加害行為とが競合して発生し、又は右身体的特徴が被害者の損害の拡大に寄与していたとしても、これを損害賠償の額を定めるに当たり斟酌するのは相当でない」
令3
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 不法行為による損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 本肢では、「過失のあった被害者が未成年である場合、どの程度の知能・能力が備わっておれば、過失を斟酌できるか」というのが論点。
 参考までに、712条によれば、「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない」とある。
 これは、賠償責任そのものについての話であるが、過失相殺の可否もこれでよいのだろうか。
 これについては、最高裁判例[損害賠償等責任](S39.06.24)において、
 「民法722条2項の過失相殺の問題は、不法行為者に対し積極的に損害賠償責任を負わせる問題とは趣を異にし、不法行為者が責任を負うべき損害賠償の額を定めるにつき、公平の見地から、損害発生についての被害者の不注意をいかにしんしゃくするかの問題に過ぎないのであるから、被害者たる未成年者の過失をしんしゃくする場合においても、未成年者に事理を弁識するに足る知能が具わっていれば足り、未成年者に対し不法行為責任を負わせる場合のごとく、行為の責任を弁識するに足る知能が具わっていることを要しないものと解するのが相当である」とある。
 ここで、
事理を弁識するに足る能力(事理弁識能力)とは、自ら行った行為の結果について(何かまずいことが起きるかもしれないこと)は知ってわきまえている。損害の発生を避けるのに必要な注意能力も含むが、自ら行った行為の結果、なんらかの(あるいはどのような)責任が発生するかを理解するまでには至らない程度といわれている。
 5ないし6歳程度であれば備わっているとする例が多い。
責任を弁識するに足る能力(責任能力)」とは、自らが行なった行為の結果として、何らかの責任が生じるということは知ってわきまえている。
 11歳ないし12歳程度であれば備わっているとする例が多い。
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 不法行為による損害賠償額を定めるにあたって、722条2項に、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」とある。
 本肢の場合、被害者Aが「急に道路へ飛び出した」、あるいは監督者である母親Bが「目を離した」という過失があると思われるが、それとは別に、
 「Aが病気であったこともあって死亡した(病気でなければ死亡までには至らなかった可能性がある)場合」、病気になったのは過失とはいえないので、病状やその程度がどうあろうと、Aの病気のことは考慮に入れることはできないかどうか」が本肢の論点である。
 これについては、最高裁判例[損害賠償](H04.06.25)において、
 「被害者に対する加害行為と被害者のり患していた疾患とがともに原因となって損害が発生した場合において、当該疾患の態様、程度などに照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、被害者の当該疾患をしんしゃくすることができるものと解するのが相当である。
 けだし、このような場合においてもなお、被害者に生じた損害の全部を加害者に賠償させるのは、損害の公平な分担を図る損害賠償法の理念に反するものといわなければならないからである」と判断した。
 なお、この判例においては、被害者は幼児ではなく成人である。そして、以前にかかった一酸化炭素中毒による脳の損傷に、今回の交通事故による頭部打撲傷があわさって死亡したと思われる。
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 「名誉毀損による不法行為が成立する」場合は、723条にあるように、「裁判所は、被害者の請求により、(709条による)損害賠償に代えて又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」
 ここで、「名誉を回復するのに適当な処分」としては、「謝罪広告」などが考えられている。
 本肢の論点は、以上を踏まえて、「主観的な名誉感情が侵害された場合でも、名誉毀損による不法行為が成立するか」という点にある。
 これに関する最高裁判例[委嘱状不法発送謝罪請求](S45.12.18]によると、
 「民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である」としている。
 その理由については、「同条が、名誉を毀損された被害者の救処分として、損害の賠償のほかに、それに代えまたはそれとともに、原状回復処分を命じうることを規定している趣旨は、その処分により、加害者に対して制裁を加えたり、また、加害者に謝罪等をさせることにより被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきであり、したがつて、このような原状回復処分をもつて救済するに適するのは、人の社会的名誉が毀損された場合であり、かつ、その場合にかぎられると解するのが相当であるからである」とした。
 参考までに、事件の発端は、市長選挙に際し自民党候補の選挙対策委員の委嘱状が誤って共産党候補者に送付されたので,謝罪状を出すように求めたものであるが、原審、最高裁とも、人の社会的名誉(あるいは政治的信用)が毀損されたとまではいえないとして、謝罪状の要求を退けた。

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 「不法行為の被侵害利益としての名誉」とある。
 名誉毀損については、723条に、「裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる」とあり、裁判所による判断に依存することが多い。
 本肢は、「不法行為の被侵害利益としての名誉」とはどのようなものかを問うており、最高裁判例[委嘱状不法発送謝罪請求](S45.12.18]によると、
 「民法723条にいう名誉とは、人がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価、すなわち社会的名誉を指すものであつて、人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価、すなわち名誉感情は含まないものと解するのが相当である」としている。
 その理由については、「同条は、被害者に主観的な満足を与えたりするためではなく、金銭による損害賠償のみでは填補されえない、毀損された被害者の人格的価値に対する社会的、客観的な評価自体を回復することを可能ならしめるためであると解すべきであり、したがつて、このような原状回復処分をもつて救済するに適するのは、人の社会的名誉が毀損された場合であり、かつ、その場合にかぎられると解するのが相当であるからである」とした。
  すなわち、「名誉毀損とは、この客観的な社会的評価を毀損する(損なう、いいかえれば壊す、低下させる)行為をいう」
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 不法行為に対する損害賠償請求権の時効については、724条に、
 「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する」
@被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
A不法行為の時から20年間行使しないとき。
  前段の「損害及び加害者を知った時」とは、主観的起算点であり、こちらの原則(166条)における「権利を行使することができることを知ったとき」と意味は同じである。
 ただし、5年ではなく3年であることに注意が必要であるが、これは、不法行為は、予期しない偶然の事故に基づいて発生するもので、加害者はきわめて不安定な立場に置かれることから、加害者を知っているのに3年も行使しないときは、時効消滅させて加害者を保護することを認めたものとされている。
 本肢の論点は、上記のA号に関するもので、法改正により、「20年を経過した時」は「20年間行使しないとき」に改められた。
 問題文では「不法行為の時から10年(20年でないので、解答は誤り)」とだけあり、わかりにくい表現になっているが、要するに法改正前は、不法行為があった時から単に20年が経過すれば権利を失うという「除斥期間(中断もなければ、援用も不要)とされてきた。
 改正後は、原則(166条)における「権利を行使することができるとき」と同じ意味とされ、「20年間」は除斥期間ではなく、客観的起算点を「不法行為の時」とし、権利を行使しない20年間を消滅時効期間とすることが明確にされた。
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 不法行為に対する損害賠償請求権の時効については、法改正があり、724条から、「1号:被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき、あるいは、2号:不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する」とある。
 しかしながら、本肢は、「人の生命又は身体を害する不法行為」に属するもので、法改正により、724条の2の規定が新設された。
 これによると、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、724条の1号は「知った時から3年間」ではなく、「知った時から5年間」とする」
 よって、少なくとも「事故により直ちに発生し、3年で消減時効にかかる」とあるのは、誤りである。
 また、問題文には、「症状について現実に認識できなくても、事故により直ちに発生し、3年・・・」とあるが、「損害及び加害者を知った時から」というのは、具体的にはいつからなのかという疑問も湧いてくる。
 これに関しては、最高裁判例[損害賠償請求](S42.07.18)によると、
 「被害者が不法行為に基づく損害の発生を知つた以上、その損害と牽連一体をなす損害であつて当時においてその発生を予見することが可能であつたものについては、すべて被害者においてその認識があつたものとして、民法724条所定の時効は損害の発生を知つた時から進行を始めるものと解すべきではあるが、本件の場合のように、受傷時から相当期間経過後に後遺症が現われ、そのため受傷時においては医学的にも通常予想しえなかつたような治療方法が必要とされ、右治療のため費用を支出することを余儀なくされるにいたつた等、後日その治療を受けるようになるまでは、右治療に要した費用すなわち損害については、同条所定の時効は進行しないものと解するのが相当である」
 すなわち、事故発生時に損害の発生を予見できたものについては、事故発生時に損害を認識したことなるのでそのときから時効が進行するが、事故発生時には予想できなかった後遺症によるものなどについては、後日治療を受け始めるまでは時効は進行しないとした。 
 本肢は、この点においても誤り。
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 他人の不法行為により死亡した場合、その被害者の近親者は711条にあるように、被害者の父母、配偶者及び子であれば財産権が侵害されなかった場合であっても、いわゆる慰謝料などの損害賠償を請求することができる。
 しからばそれ以外の者であるが実質的には父母、配偶者、子などと同視し得る者にも請求権は認められるかというのが本肢の論点。
 これについては、最高裁判例[損害賠償請求](S49.12.17)において、
 「不法行為による生命侵害があつた場合、被害者の父母、配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうることは、民法711条が明文をもつて認めるところであるが、右規定はこれを限定的に解すべきものでなく、文言上同条に該当しない者であつても、被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰藉料を請求しうるものと解するのが、相当である」と判示している。
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 「他人の不法行為により子が重い傷害を受けた」とある。
 この場合は、不法行為による損害賠償について規定した709条ならびに710条により、被害者である本人(子)は財産以外の損害も含めて損害賠償請求権を有する。その子が未成年である場合、親権者である両親が本人に代わって請求することができるが、それはあくまでも本人の被った損害に対する賠償である。
 一方、本人(子)が死亡した場合は、711条により、被害者の父母は、本人の財産権が侵害されなかった場合においても、近親者に固有の損害賠償(いわゆる慰謝料)請求権を認めている。
 本肢はしからば、「子が死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛をその両親が受けた場合はどうか」と問うている。
 これについては、最高裁判例[慰藉料、損害賠償請求](S33.08.05)において、
 「民法709条、710条の各規定と対比してみると、所論民法711条が生命を害された者の近親者の慰籍料請求につき
明文をもつて規定しているとの一事をもつて、直ちに生命侵害以外の場合はいかなる事情があつてもその近親者の慰籍料請求権がすべて否定されていると解しなければならないものではなく、むしろ、原審認定の事実関係によれば、被上告人(母)はその子の死亡したときにも比肩しうべき精神上の苦痛を受けたと認められるのであつて、かゝる民法711条所定の場合に類する本件においては、被上告人(母)は同法709条、710条に基いて、自己の権利として慰籍料を請求しうるものと解するのが相当である」とした。
 つまり、本肢のような場合は、死亡にまで至らなくても、母親に固有の権利として、慰謝料を請求できるとした。
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 「他人の不法行為により夫が即死した」とある。
 不法行為を受けた夫は、709条により加害者に対して損害賠償請求権を有し、この損害賠償には逸失利益(夫がその不法行為を受けずにいた場合に将来にわたって稼ぐことができるであろう利益)も含まれる。
 そして、この夫が損害賠償を請求あるいは受領する前に死亡した場合は、相続人である妻がその権利を引き継ぐことになる。
 しからば、本肢にあるように「即死」した場合は、被害のあった瞬間に人格を失ったのであるから損害賠償請求権は発生せず、よってその権利の相続もありえないのではないかと主張する者もおり、実際に訴訟にまでなったのである。
 これに関して、大審院判例[損害賠償請求事件](T15.02.16)において、
 「他人ニ対シ即死ヲ引起スヘキ傷害ヲ加ヘタル場合ニアリテモ其ノ傷害ハ被害者カ通常生存シ得ヘキ期間ニ獲得シ得ヘカリシ財産上ノ利益享受ハ途(みち)ヲ絶止シ損害ヲ生セシムルモノナレハ、右傷害ノ瞬時ニ於テ被害者ニ之カ賠償請求権発生シ、其ノ相続人ハ(当)該権利ヲ承継スルモノト解スルヲ相当ナリトセサルヘカラス(しないわけにはいかない)」とした。
 すなわち、即死の場合であっても、被害者の賠償請求権はいったん被害者に発生し、一つの財産権として相続財産に属し、即時相続によって、相続人に承継されるとしたのである。
 死亡に至るまでにほんのわずかでも時間があれば本人に損害賠償請求権を(よって死亡後は相続権)を認めるが、即死した場合はこれらを認めないと区別するのは、立法の趣旨に反すると判断したのである。
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 「他人の不法行為により夫が死亡した場合には、その妻は、相続によって夫本人の慰謝料請求権を行使できる」とあるとある。
 他人から不法行為を受けた夫は、709条によって「侵害を受けた権利、法律上保護される利益」についての損害賠償請求権を有し、また710条により、財産以外の損害に対しても慰謝料などの請求権を有する。
 そして、これらの権利を行使しないまま死亡した場合は、相続人である妻がその権利を承継することになる。
 しかし、この場合の損害賠償はあくまでも被害者である夫が被った損害の話である。
 一方、被害者が死亡した場合、711条により、被害者の妻は、本人の財産権が侵害されなかった場合であっても、近親者に固有の損害賠償(いわゆる慰謝料)請求権を認めている。
 これは妻の損害に対する賠償請求権であり、妻が自分の名前で請求できるのである。
 本肢の論点は、「相続によって夫本人の慰謝料請求権を行使できるので、妻には固有の慰謝料請求権は認められないのでは」という点にあるが、
 両方の損害賠償に重複がある部分は別として、710条による請求権の相続権があるから711条による妻固有の請求権は認められないというような規定はない。
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 「他人の不法行為により、夫が(慰謝料請求権を行使する意思を表明しないまま)死亡した場合」とある。
 この場合の慰謝料請求権としては、711条に、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」」とあり、
 妻であれば、妻固有の精神的苦痛による損害賠償請求を711条に基づいて行うことができる。
 しかしながら、被害者である夫の精神的苦痛はさらに大きかったであろうから、本肢は夫の慰謝料請求権についての問題であり、夫がその権利を行使する意思を示さないまま死亡した場合、妻(広くは相続人)がこれを承継して被害者本人の慰謝料請求権を行使できるかということが論点になっている。
 この点に関しては、財産的な損害についてあれば特に問題はないものの、本人の苦痛などに基づく慰謝料請求権については、896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」とあることで、議論が複雑になる。
 しかしながら、最高裁判例[慰謝料請求](S42.11.01)によると、
 「ある者が他人の故意過失によつて財産以外の損害を被つた場合には、その者は、財産上の損害を被つた場合と同様、損害の発生と同時にその賠償を請求する権利すなわち慰藉料請求権を取得し、右請求権を放棄したものと解しうる特別の事情がないかぎり、これを行使することができ、
 その損害の賠償を請求する意思を表明するなど格別の行為をすることを必要とするものではない。
 そして、当該被害者が死亡したときは、その相続人は当然に慰藉料請求権を相続するものと解するのが相当である」とした。つまり、「慰藉料請求権は一身専属権であるから、被害者の請求の意思の表明があつたときはじめて相続の対象となる」とした原判決は誤りとしたのだ。

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 被用者(使用者に使われる者)が損害を与えたときの使用者責任については715条に、
 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とあり、さらに同2項において、
 「使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う」とある。
 よって、被用者の支払能力があろうとなかろうと、使用者と監督者が賠償責任を負うことになる。
 (ただし、715条1項後段にあるように、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」という例外規定もあるが、本肢の論点とはなっていない)
 一方、損害を与えた被用者もこれらとは独立して「不法行為による賠償責任」があることも事実。
 つまり、被害者は「加害者である被用者本人」、「使用者・監督者」のいずれかあるいは両者に損害賠償を請求することができ、誰からかを問わず損害賠償を受ければ、第三者に関してはそれで1件落着となる。
 しかしながら、715条3項に、「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」とあるように、事件発生の状況によってはその後も使用者、監督者、被用者の間で、支払われた賠償額をどのように負担するかという内部問題が残る。

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 「被用者が、事業の執行につき、第三者に損害を」とあり、このような場合は、被用者(使用者に使われる者)が損害を与えたときの使用者責任について規定した715条に、
 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とあり、使用者は、賠償責任を負うことになる。(ただし、この715条は、被用者が不法行為責任を負う場合に限られるとされている)
 これは、「使用者は被用者の活動により事業範囲を拡大して利益をあげているからして、その活動によって発生した損失をも負担すべきである」という考え方、さらには、
 「被用者を用いて事業を拡大することにより、それだけ危険を増大させているのだから、その損失を負担すべきである」という考え方によるといわれている。
 ただし、この使用者責任については、同条後段にただし書きがあり、
 「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」としている。
 よって、条文上は本肢は「正しい」が、実際には、このただし書きによる使用者の免責は最近ではほとんど認められず、死文化しているといわれている。 
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 使用者に使われる者が損害を与えたときの使用者責任について規定した715条に、
 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」とある。
 本肢の場合、「A社の従業員B(すなわち被用者)が、A社所有の配達用トラックを運転中(すなわちその事業を執行しているときに)、運転操作を誤って歩行中のCをはねて負傷させ損害を生じさせた(不法行為により第三者に損害を与えた)のであるから、上記715条に該当し、A社(使用者)がその損害を賠償する責任を負うことになる。(なお、ただし書きがあるのはあるが、実際にはほとんど認められない)
 また、一方では、実際に損害を与えたBはこれらとは別個に、「不法行為による賠償責任」がある。
 つまり、被害者は「加害者である被用者本人」、「使用者」のいずれかあるいは両者に損害賠償を請求することができる。
 本肢の場合は、「A社がCに対して損害の全額を賠償した」とあるから、被害者Cとの関係はこれで一件落着である。
 しかし、715条3項に、「使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」とあり、A社とBの間には、賠償額をどのように負担するかという内部問題が残る。
 その際、「A社は、Bに対し、事情のいかんにかかわらずCに賠償した全額を求償することができる」としてよいかというのが、本肢の論点。
 常識からいっても、A社がBに対して過酷な労働条件を強いたり、過剰なスピードアップを要求したりというような事情があれば、Bもだまってはいないであろう。
 最高裁判例[損害賠償請求](S51.07.08)においても、
 「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、
 使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、
 損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」
 要するに、いろんな事情を考慮すれば、信義則上妥当と思われる分担比率というものがあるはずだということ。
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 被用者が行った加害行為に関しては、715条にあるように、「使用者が損害賠償責任を負う」
 これは使用者は、被用者に仕事をさせることによって利益を得ているのだから、それによって発生した損失も負担すべきということからきている。なお、同条にただし書きには、「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときはこの限りでない」となるが、実際にはこの免責が認められることはほとんどない。
 一方、加害行為をおこなった被用者に対しても、709条により、不法行為に基づく損害賠償責任があるので、被害者は「加害者である被用者本人」あるいは「使用者」のいずれかあるいは両者に損害賠償を請求することができる。
 本肢の場合は、「使用者が損害の全額を賠償した」とある。
 それでは、「使用者は被用者に対して全額を求償することができるか」というのが本肢の論点であるが、715条3項には確かに「使用者は被用者に対する求償権の行使を妨げない」とはある。
 ただし、これだけだと全額かどうかについてははっきりしない定かでない。
 そこで、最高裁判例に判断を求めると[損害賠償請求](S51.07.08)に、「「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである」としている。
 つまり、「(当然に)全額」ということでなく、種々な事情を考慮し、信義則上妥当と思われる比率で分担すべき」いうこと。

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 バスの乗客は、バスの運転手の過失によって負傷という損害を被ったのであるから、Bに対して、709条を根拠にした不法行為による損害賠償を請求できる。
 その場合、バスの運転手はバス会社の使用人であるからして、715条の使用者責任すなわち、
 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」に基づき、会社に請求したところ、会社がこれに応じた。
 よって、乗客と運転手との関係はこれで終わり、後は内部処理の問題となる。
 会社は運転手に対して715条3項により、「立て替えた賠償金を弁償して欲しい」ということもできるが、事故を起こした相手側のタンクローリ運転手にも過失があったのだから、これに請求できるか、というのが本肢の問題である。
 これについては、最高裁判例(S41.11.18)に、
 「タクシー会社の被用者であるタクシー運転手が運転するタクシーと上告人の運転する自動車とが衡突事故を起した。 右事故は、タクシー運転手と上告人の過失によつて惹起されたものであり、これによりタクシーの乗客は胸部、頭部打撲傷等の傷害を受けた。
 タクシー会社は、乗客に対し、右事故による損害を賠賞した、という事実関係のもとにおいては、タクシー会社とタクシー運転手及び上告人らは、各自、乗客が蒙つた全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、右債務の弁済をしたタクシー会社は、上告人に対し、上告人とタクシー運転手との過失の割合にしたがつて定められるべき上告人の負担部分について求賞権を行使することができるものと解するのが相当である」
 よって、バス会社は、相手側のタンクローリ運転手に対して、過失割合に応じて求償することができる。(相手側の会社にも求償できる)
 要するに本事件の場合、
・バスの運転手Bとタンクローリーの運転手Cは乗客に対する不法行為に関して、共同責任がある。
  よって、BとCは乗客に対して連帯して、損害賠償の責任を負う。(719条)
・また、バス会社Aとタンクローリーの会社Dも使用者としての責任を負っている。(715条)
・賠償した額が過失割合を超えていたときは、超えた分を共同責任者あるいは、その使用者対して求償することができる。
・本肢の場合、バス会社Aが全額を賠償したので、タンクローリの運転手Cに対して、その過失割合の70%分を求償できる。(D社に請求することもできる)
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 タクシー会社の運転手Oと自家用車の運転手Qは、双方の過失による衝突で乗客Pに損害を与えたのだから、OとQには709条を根拠にした不法行為による損害賠償責任がある。
 一方、タクシー会社Nには715条による使用者責任が発生する。
 そのため本肢の場合、「タクシー会社Nが乗客Pに損害の全額を賠償した」とあり、これで乗客との関係は一件落着である。
 その後、会社Nの求償権はどこまで及ぶかというのが、本肢の論点。
 まず、自社の従業員Oに対しては、715条3項により、「被用者に対する求償権の行使を妨げない」とあるから、賠償金の一部について請求可能である。しかし、全額を請求できないことは当然であろう。
 そこで会社Nは、自家用車の運転手Qに対して、過失割合に応じた負担を請求したところ、これがもめにもめて最高裁までいった。
 これに関する最高裁判例(S41.11.18)によると、
 「タクシー会社は、乗客に対し、右事故による損害を賠賞したという事実関係のもとにおいては、タクシー会社とタクシー運転手及び上告人(自家用車運転手)らは、各自、乗客が蒙つた全損害を賠賞する義務を負うものというべきであり、また、右債務の弁済をしたタクシー会社は、上告人(自家用車運転手)に対し、上告人とタクシー運転手との過失の割合にしたがつて定められるべき上告人の負担部分について求賞権を行使することができる」とした。 
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 過去問(18-34-ア)の解説にあるように、
 本事件の場合、
・バスの運転手Bとタンクローリーの運転手Cは乗客に対する不法行為に関して、共同責任がある。
 よって、BとCは乗客に対して連帯して、損害賠償の責任を負う。
・また、バス会社Aとタンクローリーの会社Dも使用者としての責任を負っている。(715条)
・賠償した額が過失割合を超えていたときは、超えた分を共同責任者あるいは、その使用者対して求償することができる。
・本肢の場合、バスの運転手Bが全額を賠償したので、タンクローリ社Dに対して、その過失割合の70%分を求償できる。(Cに請求することもできる)
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 過去問(18-34-ア)の解説にあるように、
 本事件の場合、
・バスの運転手Bとタンクローリーの運転手Cは乗客に対する不法行為に関して、共同責任がある。
 よって、BとCは乗客に対して連帯して、損害賠償の責任を負う。(719条)
・また、バス会社Aとタンクローリーの会社Dも使用者としての責任を負っている。(715条)
・賠償した額が過失割合を超えていたときは、超えた分を共同責任者あるいは、その使用者対して求償することができる。
・本肢の場合、バスの運転手Bが全額を賠償したので、タンクローリ社Dあるいは運転手Dに対して、その過失割合の70%分を求償できる
 しかしながら、運転手Bが自分の会社に全額賠償するようにと求償するのは無理である。(自分の過失割合30%分に限っても、会社がこれに応じる義務があるか否かについても疑問がある)
18
34
 本肢においては、観光バスの運転手Bとタンクローリ運転手Cは衝突事故についていずれも過失があるので、乗客に対して、709条に基づき、不法行為による損害賠償に応じる義務がある。
 その際、BとCの過失割合は3:7であるのもかかわらず、BとCは5割づつ負担したとある。
 乗客との関係はそれで一件落着であるが、BとCとの関係からすると、Bは余分に負担した2割分をCに対して請求できるのは、当然であろう。
 しかし、Bは個人であるCよりも、Cが働いている会社Dに請求することはできないか、というのがこの問題である。
 これに対しては、最高裁判例(S63.07.01)において、
 「被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、右第三者が自己と被用者との過失割合に従つて定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、右第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当である。
 けだし、使用者の損害賠償責任を定める民法715条1項の規定は、主として、
 使用者が被用者の活動によつて利益をあげる関係にあることに着目し、利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から、被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきものとしたものであつて、このような規定の趣旨に照らせば、
 被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には、
 使用者と被用者とは一体をなすものとみて
、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきであるからである」とある。
 すなわち、Bは過剰負担部分を、個人であるCよりも、Cが働いている会社Dに請求することができる。
28
34
 「運送業者Jの従業員Kの運転するトラックとLの運転する自家用車が双方の過失により衝突して、通行人Mを受傷させ損害を与えた」とある。
 この場合、運転手KとLは、加害者として共同責任があり、また、運送業者Jは運転手Lの使用者としての責任がある。
 被害者Mからいえば、J、K、Lのいずれにも全額損害賠償せよと要求することができ、また、そのうち誰かが、全額賠償すれば、それで一見落着となる。
 あとは、当事者同士の問題である。
 本肢の場合、「LがMに対して全額を賠償した」とある。しかしながら、Lは自分にも過失割合に応じた責任があることはわかっているので、「Kの過失割合に応じて負担部分(Lが負担しすぎの分)について、Kではなく、その使用者Jに求償できるか」というのが本肢の論点。
 これについては、最高裁判例(S63.07.01)によれば、「被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきである」とした。
 つまり、「Lは、Kがその過失割合に応じて負担すべき部分については、Jに対して求償することができる」とした。後は、会社Jと従業員Kとの間の内部問題にすぎない。
18
34
 過去問(18-34-ア)及び過去問(18-34-エ)の解説にあるように本事件の場合、
・バスの運転手Bとタンクローリーの運転手Cは乗客に対する不法行為に関して、共同責任がある。
 よって、BとCは乗客に対して連帯して、損害賠償の責任を負う。(719条)
・また、バス会社Aとタンクローリーの会社Dも使用者としての責任を負っている。(715条)
・賠償した額が過失割合を超えていたときは、超えた分を共同責任者あるいは、その使用者対して求償することができる。 
・本肢の場合、タンクローリの運転手Cが全額を賠償したので、バスの運転手Bだけでなくバス会社A社に対して、その過失割合の30%分を求償できる。
 その結果、どちらかが30%分を払ってくれれば、それで解決となるのだ。
30
33
1
 「Bの運転する車が、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた」、そして「BとCには共同不法行為責任が成立する」とある。
 このような共同不法行為者の責任については、719条にあるように、「各自が連帯して責任を取らなければならない」ことから、被害者Dは、Bに対しても、Cに対しても、あるいは使用者責任のあるAに対しても全額の賠償を請求できる。
 本肢の場合、「仕事中での事故であったので、Bの使用者であるAが、715条に基づく使用者責任をとり、全額賠償した」ようである。(これで、被害者Dに対する問題は一件落着)
 後は、AとCとの間の求償関係と、AとBの間の会社内部での問題が残るが、本肢の論点は、後者について。
 問題文では、「Aは、Bに故意または重大な過失があったときに限ってBに対して求償することができる」としているが。この点について715条3項では、「使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げない」とあり、特に明文化された制限はない。
 結局、Bが賠償することになるのなら、「715条にある使用者責任とは何なのか」という疑問がわいてくるはず。
 これに関する通説あるいは判例によると、「使用者責任は、被用者の不法行為に伴う責任を代位してとるものであり、最終的な責任負担者は被用者であって、これに求償が認められるのは当然である」とする。
 一方では、被用者の業務の内容、加害行為の態様等々の諸事情に応じて、求償にある程度の制限を加えてもよいのではないか、という意見もある。
30
33
2
 「Bの運転する車が、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた」、そして「BとCには共同不法行為責任が成立する」とある。
 このような共同不法行為者の責任については、719条にあるように、「各自が連帯して責任を取らなければならない」ことから、被害者Dは、Bに対しても、Dに対しても、あるいは使用者責任のあるAに対しても全額の賠償を請求できる。
 本肢の場合、「仕事中での事故であったので、Bの使用者であるAが、715条に基づく使用者責任をとり、全額賠償した」ようである。(これで、被害者Dに対する問題は一件落着)
 後は、AとCとの間の求償関係と、AとBの間の会社内部での問題が残るが、本肢は前者の問題(後者については、過去問解説(30-33-1)の通り)
 問題文では、「損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってCに対して求償することができる」とあるが、常識的に考えても、一津に半分づつではなく、BとCの過失の程度はどちらが大きかったかによるであろう。
 実際、最高裁判例[損害賠償請求(S41.11.18)]において、
 「タクシー会社の被用者であるタクシー運転手と上告人の運転する自動車とが衡突事故を起し、タクシーの乗客は頭部打撲傷等の傷害を受けた。
 タクシー会社は、乗客に対し、右事故による損害を賠賞したという事実関係のもとにおいては、賠償の全額を弁済したタクシー会社は、上告人に対し、上告人とタクシー運転手との過失の割合にしたがつて定められるべき上告人の負担部分について求賞権を行使することができるものと解するのが相当である」としている。
 よって、本肢の場合も、使用者Aは、共同不法行為者Dに対して、過失割合に応じて(もし、過失割合がBが4、Dが1であれば、全体の1/5の額を)求償することができる。
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3
 「Bの運転する車が、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた」、そして「BとCには共同不法行為責任が成立する」とある。
 このような共同不法行為者の責任については、719条にあるように、「各自が連帯して責任を取らなければならない」ことから、被害者Dは、Bに対しても、Dに対しても、あるいは使用者責任のあるAに対しても全額の賠償を請求できる。
  本肢の場合、「Cが全額賠償した場合」とある。ただし、過去問解説(30-33-2)にもあるように、「Cは、Bに対してはB・C間の過失の割合によるBの負担部分について求償することができる」
 本肢の論点は、[Cは、共同不法行為者であるBが過失割合に応じで負担すべき額を、共同不法行為者ではないAに対して求償できるか」ということ。
 本肢の場合、Aには使用者責任があるという設定になっていることから、Aはそれに応じる義務があるはず。
 実際、最高裁判例[損害賠償請求事件(S63.07.01)]において、
 「被用者がその使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合において、右第三者が自己と被用者との過失割合に従つて定められるべき自己の負担部分を超えて被害者に損害を賠償したときは、右第三者は、被用者の負担部分について使用者に対し求償することができるものと解するのが相当である。
 けだし、使用者の損害賠償責任を定める民法715条1項の規定は、主として、使用者が被用者の活動によつて利益をあげる関係にあることに着目し、利益の存するところに損失をも帰せしめるとの見地から、被用者が使用者の事業活動を行うにつき他人に損害を加えた場合には、使用者も被用者と同じ内容の責任を負うべきものとしたものであつて、このような規定の趣旨に照らせば、被用者が使用者の事業の執行につき第三者との共同の不法行為により他人に損害を加えた場合には、使用者と被用者とは一体をなすものとみて、右第三者との関係においても、使用者は被用者と同じ内容の責任を負うべきものと解すべきであるからである」とある。
 すなわち、Cは過剰負担部分を、共同不法行為者であるが個人のBはもちろんのこと、共同不法行為者ではないがBが働いている会社Aにも請求することができる。
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4
 「Bの運転する車が、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた」、そして「Aには使用者責任、BとCには共同不法行為責任が成立する」とある。
 まず、被害者Dに対しては、Bを使用しているAが使用者責任をとって、全額賠償したようである。
 本来なら、加害者であるBとCがその過失割合に応じて、賠償すべきであることから、原則的には、AはB及びCのそれぞれに、過失割合に応じて支払うべき賠償金を求償できるはずである。
 ここにおいて、「Cにも使用者Eがおり、その事業の執行中に起きた衝突事故であった場合」とあるから、Cの不法行為に関しては、Eが使用者責任を負っているものと考えられる。
 そこで、本肢の論点は「Cに対してではなく、その使用者であるEに対して求償することができるか、その場合、使用者責任の割合は、BとCの過失割合に従うということでよいか」ということ。
 これに関しては、最高裁判例[求償金](H03.10.25)において、
 「複数の加害者の共同不法行為につき、各加害者を指揮監督する使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においては、一方の加害者の使用者と他方の加害者の使用者との間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、それぞれが指揮監督する各加害者の過失割合に従って定めるべきものであって、一方の加害者の使用者は、当該加害者の過失割合に従って定められる自己の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、他方の加害者の使用者に対し、当該加害者の過失割合に従って定められる負担部分の限度で、右の全額を求償することができるものと解するのが相当である。
 けだし、使用者は、その指揮監督する被用者と一体をなすものとして、被用者と同じ内容の責任を負うべきところ、この理は、右の使用者相互間の求償についても妥当するからである」
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5
 「Bの運転する車が、Cの車と衝突して歩行者Dを負傷させた」、そして「Aには使用者責任、BとCには共同不法行為責任が成立する」とある。
 まず、被害者Dに対しては、Bを使用しているAが使用者責任をとって、全額賠償したようである。
 本来なら、加害者であるBとCがその過失割合に応じて、賠償すべきであることから、原則的には、AはB及びCのそれぞれに、過失割合に応じて支払うべき賠償金を求償できるはずである。
 本肢では、AとBの間の求償問題であるが、複雑なことに、「Bは、Aのほか指揮監督者であるFにも服しており、AとFの事業の執行中に起きた衝突事故であった場合」とある。
 この点については、使用者責任について規定した715条の2項に、「使用者に代わって事業を監督する者も、前項の使用者責任を負う」とある。
 すなわち、同じ雇われ人に使用者責任を持つものがAとFの複数人である場合、「Aは、損害の公平な分担という見地から均等の割合に限ってFに対して求償することができるのか、あるいはそれ以外の割合が妥当であるか」というのが本肢の論点。
 これに関しては、最高裁判例[求償金](H03.10.25)の後段において、
 「一方の加害者を指揮監督する複数の使用者がそれぞれ損害賠償責任を負う場合においても、各使用者間の責任の内部的な分担の公平を図るため、求償が認められるべきであるが、その求償の前提となる各使用者の責任の割合は、被用者である加害者の加害行為の態様及びこれと各使用者の事業の執行との関連性の程度、加害者に対する各使用者の指揮監督の強弱などを考慮して定めるべきものであって、
 使用者の一方は、当該加害者の前記過失割合(共同加害者BとC間の過失割合)に従って定められる(Bの)負担部分のうち、右の責任の割合(使用者AとF間の責任の割合)に従って定められる自己(A)の負担部分を超えて損害を賠償したときは、その超える部分につき、使用者の他方(F)に対して右の責任の割合に従って定められる負担部分の限度で求償することができるものと解するのが相当である」

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34
3

 使用者責任とは、715条
 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。
 ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」
 本肢の場合、「ただし書き」に該当するようにことは何もふれられていないので、これには該当しないと考えられる。
 よって論点は、「飲食店の店員が出前に自動車で行く途中で・・・」とあるのが、「被用者がその事業の執行について」に該当するか否かににある。
 これについては、最高裁判例[使用者責任による損害賠償](S46.06.22)において、
 「訴外D、E両名は、鮨加工販売業を営む会社の支店に店員として雇用されていたところ、Dは会社所有の軽四輪自動車を運転し、Eはその助手席に同乗して、いずれも出前および鮨容器の回収業務におもむく途次、右側方向指示器を点灯したまま走行したので、その右折を予期した被上告人運転の小型自動車と接触しそうになり、そのため、被上告人と訴外人両名が口論になったあげく、 右訴外人両名が被上告人に対し暴行を加えたというのである。
 右事実によれば、被上告人の被つた損害は、右訴外人両名が、会社の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる行為をすることによつて生じたものであるから、715条1項にいう被用者が使用者の事業の執行につき加えた損害というべきである」とした。
 よって、本肢の場合、「事業の執行につき加えた損害に該当するので、店員の使用者は、使用者責任を負うことになる」


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2
 「兄が自己所有の自動車を弟に運転させて迎えに来させた上、弟に自動車の運転を継続させ、これに同乗して自宅に戻る途中に、弟の過失により追突事故が惹起された。その際、兄の同乗後は運転経験の長い兄が助手席に座って、運転経験の浅い弟の運転に気を配り、事故発生の直前にも弟に対して発進の指示をしていたとき」とある。
 これだけで、この兄に、715条「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」とある使用者責任を負わされるのか、という素朴な疑問が起きるかもしれない。
 しかしながら、最高裁判例[損害賠償本訴、同反訴](S56.11.27)によると、「運転経験の長い兄が助手席に坐つて、運転免許の取得後半年位で運転経歴の浅い弟の運転に気を配り、事故発生の直前にも同人に対し「ゴー」と合図して発進の指示をした、という。 
 この事実関係のもとにおいては、兄は、一時的にせよ弟を指揮監督して、その自動車により自己を自宅に送り届けさせるという仕事に従事させていたということができるから、兄と弟との間に本件事故当時、民法715条1項にいう使用者・被用者の関係が成立していたと解するのが相当である」とある。
 すなわち、715条にける使用者・被用者の関係は、通常は、雇用などの契約に基づくものであろうが、何らかの指示や監督のもとに、ちょっとした仕事をさせているにすぎない場合も含まれるということ。

6
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4

 請負人と注文者との責任の取り方については、716条
 「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。
 ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」とある。
 つまり、請負人が行った加害行為については、原則からいって、注文者は責任を負うことはない。
 さらに、注文者の注文又は指図について過失がなければ、「ただし書き」にも該当しないので、やはり責任を負うことはない。
 「注文者は常に責任を負う」というのは大間違いで、「負わないのが原則であるが、例外的に負う場合もある」

21
34
4

 「請負人がその仕事について第三者に損害を与えてしまった場合、注文者と請負人の間には使用関係が認められるので」とあるが、
 ここで「使用関係」とは、「事業のために他人を使用する、すなわち使用する者と使用される者の間に指揮命令関係があることを要する」とある。
 一方、請負とは632条
 「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」とあるように指揮命令関係のある「使用関係」とは異なる。
 従って、使用関係がある場合の715条による使用者責任の規定はこの場合は該当しない。
 請負人と注文者との責任の取り方については、716条
 「注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。
 ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない」が適用されることになる。
 本肢の場合は、「ただし書き」に該当するような特段の事情が書かれていない以上、「注文者は、原則として第三者に対して責任を負わない」ことになる。

6
31
1

 土地の工作物等の占有者及び所有者の責任に関しては、717条に、
 「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」
 すなわち、工作物の設置に瑕疵があったときは、一次的には、所有者ではなく占有者が責任を負う。
  ただし、占有者が無過失を立証すれば免責となり、所有者が責任を負うことになる。この場合、所有者は過失がなくても責任を負う無過失責任となる。
 参考までに、同条3項にあるように、損害発生の原因が第三者の過失によるものであった場合は、責任を負った所有者がその第三者に対して求償することはできる。

21
34
5

  「借家の塀が倒れて通行人が怪我をした場合」とある。このような場合の責任は、その塀の所有者が負うのか、塀の占有者である借家人が負うのか、というのが本肢の問題。
 これについては、土地の工作物等の占有者及び所有者の責任について規定した717条に、
 「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
 ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」とある。
 つまり、一次的には、塀を占有している借家人に責任がかかってくるが、
 「その占有者が、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたとき」とあるから、たとえば「大家さんに報告してすぐに修理するように頼み、その間は、この塀は壊れているから危ないよと張り紙をしておくなど、それ相応の注意をすれば免責になる可能性がある。
 そしてさらにそのような注意をして免責が認められれば、「所有者がその損害を賠償しなければならない」ことになる。
 このような場合は、所有者は無過失であるがゆえの免責はなく、無過失責任が問われることになる。


34
3
 「宅地の崖地部分に設けられたコンクリート擁壁(がけ崩れなどを防ぐための壁)に瑕疵があり、前所有者の所有していた際に生じていた。しかし、現所有者は瑕疵がないと過失なく信じてその宅地を買い受けて占有していた」とある。
 問題文にはないが、そのために、他人に損害が発生した場合は、717条により、「土地の工作物の占有者及び所有者責任」を問われるかどうかが問題にある。
 その場合、前所有者時代からあった瑕疵であって、しかも現所有者は瑕疵がないと過失なく信じていたことを、どう評価するかである。
 これに関しては、大審院判例(S03.06.07)によると、「工作物の瑕疵が、現所有者の前の所有者が工作物を所有していた時期に生じたものであり、その瑕疵があることによって第三者に損害が生じた場合であっても、その損害がその所有者中に生じたものである限り、現所有者は、工作物の所有者としての損害賠償責任を逃れることはできない」としている。
 所有者は無過失であっても、責任を免れることはできない。
28
34
 「Gがその所有する庭に植栽した樹木が倒れて通行人Hに怪我を負わせる事故が生じた」とある。
 たとえば、塀など、土地の工作物に瑕疵があって他人に損害を与えた場合は、717条から、「その工作物の占有者(本肢の場合は、所有者が即占有者でもある)に賠償責任がある」
 ただし、本肢にある庭の樹木は、土地の工作物ではないが、同条2項から「竹木又はその支持物」についても準用される。
 さらに続けて、本肢では「植栽工事を担当した請負業者Iの作業に瑕疵があったことが明らか」とある。
 このような場合は、717条3項に、「損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる」とある通り。
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 まず、問題文にある土地工作物責任に基づく損害賠償とは、717条
 「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
 ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」によるもの。
 本肢の論点は、鉄道会社の線路が土地工作物に該当するかどうかであるが、これについては、最高裁判例[損害賠償請求](S46.04.23)において、
 「列車運行のための専用軌道と道路との交差するところに設けられる踏切道は、本来列車運行の確保と道路交通の安全とを調整するために存するものであるから、
 必要な保安のための施設が設けられてはじめて踏切道の機能を果たすことができるものというべく、したがつて、土地の工作物たる踏切道の軌道施設は、保安設備と併せ一体としてこれを考察すべきであり、もしあるべき保安設備を欠く場合には、土地の工作物たる軌道施設の設置に瑕疵があるものとして、民法717条所定の帰責原因となるものといわなければならない」とした。
 すなわち、「線路は土地工作物であるから、これにはあたらないという理由だけで、土地工作物責任に基づく損害賠償を請求できない」とするのは早計である。
28
34
 「Dの飼育する猛犬がE社製の飼育檻から逃げ出して通行人Fに噛みつき怪我を負わせる事故が生じた」とある。 この場合、718条から、「動物の占有者であるDは、その動物が他人Fに加えた損害を賠償する責任を負う」ことになる。
 問題は、「犬が逃げ出した原因がE社製の飼育檻の強度不足にあることを証明した」場合は、Dは免責となるかであるが、同条ただし書きによると、「動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」とあるので、原因がどうあろうと、「Dが猛犬を相当の注意をもって管理をしていた」ことを立証しない限り、責任を完全には逃れることはできない。
 参考までに、最高裁判例[損害賠償請求(S37.02.01)においても、
 「一般に犬はかん高い声をきらい本件二頭の犬もその例外ではないこと、この二頭の犬は本件事故当時大きくかつ力の強い犬であつたこと、並びに、かん高い声の衝撃によつて驚けば事故を起すこともあることが推認され、これに反する証拠がないこ、及び・・・・D(犬の占有者)は小柄な男で、犬の操作制禦方法を会得していなかつたにもかかわらず、二頭の犬を一緒に公道を運動させたため、犬が原告に跳びついた際その力に負けてこれ
を制禦することができなかつた」などにより、飼い主に管理責任を認めている。


34
4
 「犬の飼主がその雇人に犬の散歩をさせていた」とあり、続いて、「犬が幼児に噛みついて負傷させた」とある。
 このようなときは、通常の場合は、718条に「動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない」とある。
 本肢においては、犬の散歩をさせていたのが犬の占有者(犬の飼い主)ではなく、飼い主の雇われ人であって、問題文では「占有補助者」とある。
 ここで、「占有補助者」とは、雇人など、物(本肢の場合は犬)を所持はしているが、自己のためにする意思はない者のことで、占有権は認められないとされている。
 本肢の状況に似た裁判例として、大審院判例[損害賠償請求](T10.12.15)がある。
 この場合は、Y社所有の荷馬車馬が、自動車の警笛に驚き疾走して、他の車体と衝突してある店舗に突入し損害を生じさせたものである。
 その判決文によると、「荷馬車ノ操作ヲシテイタ Aカ、民法718条ノ動物ノ占有者テアルトノ上告ニ対シ、前記馬ハ Y社カAヲ占有ノ補助機関トシテ該馬ノ占有ヲ為シ居リタルコトヲ認メ、・・・即チ Y社ヲ以テ民法第718条1項ノ動物ノ占有者ト為シタルモノニシテ、 Aヲ其占有者ト為シタルニ非サルハ勿論、同条2項ノ占有者ニ代リテ保管スル者(現行の718条2項では管理者)ト為シタルニモ非サル」とある。
  つまり、その馬の占有者は会社Yそのものであって、その雇人であるAは占有の補助機関(占有者が会社であるので補助機関というが、上記の占有補助者と同じ意味)であって、占有者とは認められない。
 さらには、718条2項にある管理者にも該当しないとして、動物占有者の責任はAには及ばないとした。

4
34
4
 「路上でナイフを振り回して襲ってきた暴漢から自己の身を守るために」とある。
 このような場合は、720条1項に、「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない」とある。
 これは、「正当防衛」と呼ばれるもので、
@「暴漢が、路上でナイフを振り回して襲ってきた」のは、他人の不法行為
A「自己の身を守るために」とは、当然ながら、自己の権利であり、法律上保護される利益を防衛するため
B「他人の家の窓を割って逃げ込んだ者」とは、やむを得ず加害行為をした者
であるからして、本肢の場合は、720条1項の「正当防衛」が成立する。
 なお、問題文にある「緊急避難」とは、720条2項によるもので、「他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合」のことで、「人ではなく、物が発端である」

4
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5
 問題文前段にある「路上でナイフを持った暴漢に襲われた者が自己の身を守るために他人の家の窓を割って逃げ込んだ場合」は、過去問解説(4-34-4)にあるように、720条1項の「正当防衛」が成立し、「やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない」ことになっている。
 それだけでは、窓を壊された被害者は泣寝入りしろということになりかねないが、720条1項の後段に「ただし書き」があり、「ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない」とある。

4
34
3
  「正当防衛」については、720条1項に、「他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない」とあるように、他人の不法行為が発端である。
 本肢の場合は、720条2項のいわゆる「緊急避難」すなわち、「前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する」について、検討する価値がある。
 熊(一般に動物は民法上は物とされている)は確かに「他人」ではなく、「物」であるが、(他人の)物なのかどうかはさておき、その物(熊)を損傷した場合についてとあるが、他人の飼い犬が襲ってきたので、これを撃退したようなことではない。
 しかしながら、問題文には、「(物である)熊から自己の身を守るために、他人の宅地に飛び込み、(急迫の危難を避けるため、その妨げになった他人である)板塀を壊した」とあるから、上記2項の緊急避難が成立し、損害賠償の責任を負わないとする可能性が高い。
 少なくとも、1項の「正当防衛」ではない。